「湊くんの事は、好きですよ」

「ふぅん。そうなんだ。辞めておきなよ。時間の無駄だし」

 動じることなくサラリと返された言葉に、返す言葉を即座に見つけられない。

「だってそうでしょ? 湊はとっくの昔に死んでるんだもの。ねぇ、満」

 友香さんは、猫撫で声で笑って桜庭くんに同意を求めた。桜庭くんは……答えなかった。

「私はね、満とずぅっと一緒なの。子供の頃からずっとずっと一緒。
 私の両親も満の両親も、私達が恋人同士なのを知ってるし、知ってて私の事、満の部屋に居させてくれるの。意味、判る?」

 小首を傾げた友香さんは、顔の前に流れ落ちてきた髪を無造作にかきあげる。そのわずかな時間だけ顕になった白い首筋には、紅い鬱血の痕があった。見ちゃいけないものを見た気がして目を逸らすと、今度は広めに開いたワンピースの襟ぐりから覗く緩やかな稜線を描く白い胸元が、否応無く目に入った。

 友香さんの言葉の意味するところも、見せつけられた首筋の紅い痕の意味も、私だって判る。そして、桜庭くんから聞いていた”満さんの替わり”に恋人関係のどこまでが含まれているのか、私は知らない。だから、友香さんの自信あり気な微笑が、怖い。