「ここに何しに来たの? つうか、全部お前がやったの?」
「お前なんて酷い。ちゃんと名前で呼んで? 満」
ちゃんと名前で。 その言葉に失笑してしまった。
「湊だよ」
一瞬で張り詰めた空気。肩越しに桜庭くんが私を振り返った気配を感じる。
「私は、満さんの事は知らない。私が知ってる桜庭くんは……桜庭 湊だよ」
桜庭くんを挟んで相対した友香さんは、微笑んでいて、嬉しそうにすら見えた。
……やっぱりこの人、判ってる。
桜庭くんが満さんじゃないことを、この人はちゃんと判ってる。そう確信した。
「ねぇ、とわちゃん。お話しようよ」
「駄……」
「いいよね? とわちゃん?」
友香さんは、桜庭くんの言葉に有無を言わさずに言葉を重ねて、私に微笑みかけてきたけれど……相変わらず、瞳は全く笑っていなかった。
「私、この部屋の匂い嫌いだから、外で話そ?」
桜庭くんの傍らを通って、友香さんはふわりと私の腕に腕を絡めて廊下へと誘う。
「とわ」
「満は来ないで」
心配そうな表情で桜庭くんがついてこようとしたけれど、友香さんがピシャリと封じる。