背中に届く長く真っ直ぐな黒髪。紺色のワンピースに白いカーディガンを羽織ったその人はゆっくりと振り返って、笑った。

「すごーい。ここに来たら満と会えるかなって思ってたら、ホントに来た」

 鈴を転がしたような、可愛らしいソプラノ。

「満の事、朝からずっーと探してたの。 電話、でないんだもん。無視、しないで?」

 軽い足取りで床を蹴って、ふわりと踊るように桜庭くんの胸に飛び込んだその人は、桜庭くんの背中に、細い腕を回す。

「……離してくれる?」

 そう告げる桜庭くんの声が、固い。

「嫌。絶対嫌」

 言葉と共に、桜庭くんの背中に回った細い指に沿って、桜庭くんの制服にシワが寄る。

「友香、離して」

 桜庭くんの手が友香さんの細い肩に置かれて、だけどそれに抗うように、桜庭くんの制服には、爪を立てるようにさらに深くシワが刻まれた。

「ねーぇ、満? せっかく来たのにどうして電話に出てくれないの?」

「なんでいるの? 今、外出禁止だって聞いたけど?」

「大丈夫よ? お母さんは満に逢うのは、いっつも許してくれるの。 だって、満は私の恋人でしょ? それにね……」