「ごめんね。 ほんの少しなのに凄いなって思っちゃって」

 何より、あの状況からどうやって助けたらいいのかわからなかったし……。

「とわ待ってたから逃げれなかっただけなのに」

 確かに、前に羽純が言っていたように桜庭くんは特に愛想を振りまく訳でもないし、クラスに行った時も女の子といる所は殆ど見たことがない。桜庭くんは私の手を握って歩き出す。

「……話せた?」

「うん、でも……やっぱりちょっと微妙な空気みたい」

「そっか。まぁ、仕方ないね。どうする?職員室戻る?」

 それが一番なのだと判っている。だけど、職員室に戻ればそれは帰るという事で。そう考えると、もう少し桜庭くんと一緒に居たいような気もする。

「えと……、もう少し桜庭くんと居たいんだけど……だめかな?」

 桜庭くんを見上げて言った私を見て、桜庭くんは嬉しそうに笑う。

「とわ、昨日から甘えっ子でマジ可愛い。書道室、行こうか」

 可愛いとかそういう話じゃないんですけれど。一応、私それなりに凹んでいるんですけれど。

 歩き出してすぐ、桜庭くんはポケットからスマホを出した。画面は点灯していて、どうやら電話がかかってきているようだったけれど、出ることなくポケットに戻した。