すぐ帰るか問われて、桜庭くんを見てしまう。桜庭くんって、朝、私を送ったらそのまま帰るとか言ってなかった? と思ったけれど、瀧先生の前でそれを確認するのは躊躇われた。

「えーと、クラスに少しだけ顔を出してみようかな、と思ってました」

「そう。じゃあ、帰る時には声掛けてください。終了間際でもなければ、送れるはずだから」

 職員室を出たら、開口一番に桜庭くんが「車、ずるいよなー」と呟いた。

「自分が運転したいかって言われると、まだ悩むんだけどさ」

「そっか……。そう、だよね」

 お兄さんを事故で亡くしている桜庭くんにとって、車は少し複雑な心境になるのも最もだ。

「で、どうする? とわのクラス見に行く?」

 ぱちっとスイッチを切りかえたかのように、桜庭くんは笑った。

「うん。行ってもいい?」

 せっかく来たのだから、ちゃんと謝ってから帰ろうと思っていた。火曜日から、急に普通の生活に戻るのは少し不安だったから。