まだ何も始まっていない動画なのに、自分の名前を呼ばれたせいで私の心臓はバクバクと鳴り止まず、肌は粟立っていた。
「とわ? いないの?」
もう一度、若菜の声が私を呼んだ。
真っ黒だった画面は、徐々にオレンジ色を帯びて、画面いっぱいに広がったオレンジ色に次第にピントが合っていき、それが夕日に染った床だと知れる。
床にレンズを伏せて置いていたカメラを持ち上げたのだ。
カメラがぐるりと振られて、床から書道部のみんなの書が展示してある壁を一瞬写して、若菜と、何か尖った金属の先が見えた。
「ハサミに小型カメラを付けていたんだと思う。遠藤さんが、なんか変なのが付いてるハサミを拾ったから机に置いたって話してたから」
桜庭くんが静かに注釈を入れてくれた。
怪訝そうにカメラの方を見た若菜は、それを持ったまま歩き出したらしくカメラが揺れる。そして、床から私の書へとその画面は写り変わった。
「多分ここで編集されてる。この後一瞬床が映り込む所があるんだけど、最初の遠藤さんが写ってる時と色が違う」
画面には私の書と、ハサミの切っ先。
ふわりと切っ先が浮かぶのが見て取れて、ドクン、と私の心臓が嫌な音を立てる。
桜庭くんの手が、画面を覆おうとしたけれど、私はそれを遮った。

