「桜庭くん、貴方のせいじゃないの? 」

「……どういう意味ですか?」

「私は瀬川さんがこんな嫌がらせされる理由が分からないの。貴方が瀬川さんに絡んでるから、やっかみで瀬川さんが嫌がらせされているんじゃないの? 」

 遠野先輩がトゲのある言い方で桜庭くんに詰め寄るのも、目の前の出来事のように感じられなかった。

「そう、かもしれません。……だけど、仮にそうだとしても、俺は今ここにとわを居させられません。おいで、とわ」

 桜庭くんの手が私の背中を押すけれど、私の足は竦んでしまって、床に張り付いたかのように動かなかった。

「ごめん。抱っこするよ」

 私の身体は、桜庭くんの腕に軽々と抱き抱えられた。

 部屋の外のざわめきに、少し質の違う悲鳴のような声が混じった。

「瀬川さんのこと、どこに連れてくつもり?」

「どこって……保健室ですけど? 少なくともここは、何を話すにしても最悪の場所です」

 苛立った遠野先輩の言葉に言い返す桜庭くんの怒気を含んだ声が、すぐ耳元で聞こえた。

「桜庭く……」

「いいから。とりあえず保健室まで大人しく抱っこされててよ」

 ちゃんと歩けるから大丈夫なんて、強がりでも、言えなかった。