昇降口は文化祭の飾りでいつもと雰囲気が全く違う。部の展示の当番は明日だから、今日はクラスのお店の裏方だけ。

 空いている時間を使って若菜と回る予定でいた。桜庭くんとは、時間が合えば。ただ、駆り出されそうだからあまり期待しないで、とは言われている。

 どこも楽しそう、とたくさん張り出されている模擬店のポスターをワクワクしながら眺める。

「とわ」

 靴を履いた所で、桜庭くんに声をかけられた。走ってきたらしい桜庭くんの目は、すごく真剣だった。

「おはよう。どうしたの?」

「……なにも見てない、ね。その様子だと」

 まったく意味がわからない言葉に首を傾げた私のカバンの中で、スマホがまたしても着信を告げた。

 なんだろう? 今日は、朝からやたらとなっているような気がする。

 鞄からスマホを取り出して画面を見ようとした私の手から桜庭くんがスマホを奪い取って、勝手に電話を切った。

「え、ちょっと!桜庭くん?!」

「出なくていい」

「……なんで?」

「なんでも。出なくていいから」

 桜庭くんの手から私の手に戻ってきた携帯電話は、電源が切られていた。