「聞かなきゃよかった」
「なんで?」
「それ、武田のことじゃん」
「……あ、いや、そういうつもりじゃ……」
私の答えは尻すぼみになっていく。
確かに選んだ時はそういうつもりだった。若菜と付き合っちゃったから、どうしようもなくて。凹みながら選んだのは、その時の私の気持ちをよく現していた句。
「……今は……違うよ? そんな事全然思ってないよ」
ホントに? と桜庭くんの視線が流れてくる。
「だって、今は……桜庭くん居てくれるし……」
言いながら頬が熱くなる。こんなの、好きって言ってるのと同じだ。私のそんな答えに、桜庭くんは、少しだけ満足気な表情で笑った。
「そろそろ帰ろっか」
海に行ったあの日以来、学校から駅までのそんなに遠くない道のりを、手を繋いで歩くようになった。
「文化祭終わったらどっか行こうよ。ペンギン居るとこ」
「良いけど……なんでペンギン?」
「前にも言ったじゃん。部活の時のとわ、ペンギンみたいなんだって」
「…………」
沈黙した私を、桜庭くんは喉を鳴らして笑う。
「かわいーじゃん。ペンギン」
文化祭まであと少し。私と桜庭くんの距離は、とてもとても近かった。
たった一つ、友香さんの事を除けば。