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 その日の放課後。佳乃と菜乃花は一緒に帰り道を歩いていた。浮島や剣淵らの姿もないため、久しぶりに女二人ののんびりとした時間である。

「剣淵くんの様子どうだった?」

 菜乃花には浮島や剣淵に告白されたことや、剣淵に呪いのことを明かす必要についても話していた。そのため夏休み明け初日の剣淵の様子が気になったのだろう。

「普通、だった」
「……強いのね、剣淵くん」
「強い、っていうのかな。どうなんだろう。普通すぎてよくわからなくなっちゃった」

 佳乃がそう答えると、菜乃花は佳乃の頭を撫でて微笑んだ。

「佳乃ちゃんは可愛いわ。純粋よね」
「え、私が純粋? そうかなぁ……」
「佳乃ちゃんも剣淵くんも、純粋でまっすぐで……私はとてもいいことだと思うの」

 9月になったというのに外はまだ暑く、どこかで蝉が鳴いている。きっと今年最後の鳴きだろう。公園の横を通り過ぎていく間、目をこらして木々を観察してみたが見つからない。

 近くにいるようで遠い。剣淵と佳乃の状況に似ているのかもしれない。憂鬱な気分になっていく。

「ねえ。剣淵くんと佳乃ちゃんの、あけぼの町で過ごした日の記憶が似ていたでしょう?」
「でも、それは伊達くんだったけど……」
「そうね。呪いの判断だとそれは『真実』。だけど私は……違和感だらけで納得がいかないの。私たちは呪いのことを詳しく知る必要がある」

 ではどうやって調べればいいのか。まさか手当たり次第に嘘をついてあらゆるものとキスをしろというのか。この短期間で、剣淵や浮島、伊達といった三人の男と口づけを交わしてしまった佳乃だが、これ以上被害者を増やしたくないところである。そして佳乃自身もこれ以上傷をつきたくない。

 一瞬浮かんだ怯えの表情から察したのか、菜乃花が慌てて「ごめん、そういう意味じゃないの」と訂正を入れた。

「……協力したい、って人がいるの。こういう話に詳しいオカルトライターさん」
「オカルトライターって、呪いとかUFOとか?」
「そう。だから佳乃ちゃんの呪いについても手がかりを得られるかもしれないし……その、剣淵くんも……」

 珍しく、菜乃花がそこで口ごもった。その理由はわからないが、UFOについて詳しい人ならば剣淵は喜ぶのではないか。夏のあけぼの山も空振りに終わってしまったのだ、今度こそUFO発見の糸口を掴めるかもしれない。

「いいと思う。みんなでその人に会ってみようよ」
「……ええ。ありがとう」
「剣淵にも話しておくね。その人の名前とかわかる?」
「あ、……えっと、八雲《やくも》史鷹《ふみたか》さん。剣淵くんには『八雲さん』と伝えてほしいの」

 会う日取りについては菜乃花の方で調整し、浮島や剣淵を呼んで集まることとなった。
 その際は呪いについても話すことになるだろう。佳乃が抱え、剣淵を困らせてしまった呪いについても明かすことができるかもしれない。

 剣淵と浮島に連絡をすれば協力者が増えることを彼らは歓迎していて、八雲がオカルトライターだという話に剣淵は興奮しているようだった。同好の士が増えることが嬉しいのだろう。

 そして9月の中頃。八雲との顔合わせの日がやってきた。