歩いていくと周辺の景色が緑濃くなっていく。山道に入ったのだろう、細いけもの道の周りには伸び伸びと育った木や草があり、枝葉が太陽の光を遮るため薄暗い。町でアスファルトの上を歩いていた時とは違い、真夏の暑さは薄れて涼しさを感じるほどだ。

「剣淵くんが一人で調べてた時は、ここに来なかったの?」

 先頭を歩く剣淵に浮島が声をかける。剣淵は振り返らず「ああ」と頷いた。

「どこかの山みたいな場所に行ったことは覚えていたけど、あけぼの山のことはわからなかった」

 ここへの近道だって、佳乃が思いだして辿り着いたようなものだ。剣淵だけならば、看板の裏を曲がることはしなかっただろう。

「でもここに入ってから思いだした。ここらへん、道から外れるとあぶねーから気を付けろよ」

 言われて浮島と菜乃花が横を覗きこむ。草木によって隠れていたためわからなかったが、結構な角度の斜面となっていた。

「怖いね。気を付けるよ」
「いまは俺もいるし浮島さんもいるから大丈夫だろうけど。子供の頃はここに落ちたら大変だった」

 怪我をしてしまうかもしれない、大人に怒られるかもしれない。そういうスリルが楽しかったのだろう。佳乃も斜面をちらりと覗きこむ。

 このけもの道は思っているよりも滑り、道を逸れてしまえば斜面を転がって落ちていく。生い茂った草によって落ちても軽い怪我ですみそうだが、問題は高さである。大人ならばのぼれるが子供なら――

「……あれ?」

 そこまで考えて、佳乃は首を傾げた。

 既視感がある。小さい頃、あけぼの山をのぼった時に斜面を転げ落ちたが、それはこの場所だっただろうか。子供と違い視点の高さが変わっていることもあり判断が難しい。

「佳乃ちゃん」

 名前を呼ばれて顔をあげれば、菜乃花が皆よりも一足遅れた佳乃を心配していた。

「ご、ごめん。考え事してた」
「それならいいけど……」

 佳乃を前に歩かせて、菜乃花が後ろにつく。山頂を目指して歩きながら、菜乃花がぽつりと呟いた。

「ねえ、振り返らないでこのまま聞いていて――私ね、佳乃ちゃんを疑っているの」