「な、なんでそんなことしたんですかあああ……」

 真偽を確かめるため扉を開けようと試みたが、ガチャガチャと引っかかる音がするだけで扉は開かない。怒りを浮島にぶつけてみるも、佳乃の叫びは虚しく暗闇に溶けていくだけ。

「なんで、ってこの方が面白いじゃん」
「面白くないです。いますぐ救助を求めましょう。そうだ、スマホ――」

 剣淵もしくは伊達に連絡すべくポケットを探るのだが、不運にもスマートフォンは入っていない。肝試しの時に必要ないからとかばんに入れてきたままだった。

 隣に立つ浮島を見上げてみるが、浮島はニコニコと微笑むだけ。そういえば肝試しがはじまってからスマートフォンをいじっている姿を見ていない。浮島も置いてきたのだろう。

「さ、最悪……」
「まあまあ。とりあえず誰かくるまで落ち着いて待っていようよ」

 閉じ込めた張本人は呑気にそう言って、教室の中央へ歩いていく。目当てだった体育祭用品や看板を覗き込んだりと密室を満喫しているようだ。

 浮島紫音は問題児だ。隙をついて悪い方向へ事を運ぼうとする。そんな男と二人きり、それも密室なのだ。佳乃は警戒心を露わにして、教室の端に身を寄せた。

 道案内しにいった剣淵が戻れば、佳乃と浮島がいないことに気づくだろう。そうすればこの危険な密室から脱出できるのだが。できることなら、早い方がいい。この肝試しが終わったら演劇がはじまってしまう。伊達の演じる姿を見たくてこの合宿を手伝っているというのに、その目的すら叶わなかったら何のために休日を捧げたことになるのか。

 壁を背にして膝を抱えて座りこむ。浮島と違い、陽気な気分はなれなかった。

「あれれ、ヒマそうだね?」

 そんな佳乃の様子を見て、体育祭用品の見学は終わったらしい浮島が近寄る。

「こ、こないでください」
「なにそれ。警戒しすぎじゃない? オレ、傷ついちゃう」
「傷つくもなにも! この状況を作ったのは浮島先輩です!」

 苛立った声に、浮島は「そうだねぇ」と意味深なつぶやきをして、口元を緩めた。そして佳乃の前に立ち、身をかがめて顔を寄せる。

「じゃあこの状況を生かそうか。ねえ、オレと遊ぼうよ」

 弾むような声音が一転、怪しげに低まったものになる。
 その雰囲気にのまれて佳乃は身を強張らせた。

「遊ぶって……なにを……」
「やだなぁ。それぐらい知ってるでしょ。密室に男女が閉じ込められたら、することは一つじゃん」