憧れの伊達とデートすることになったのだから、呪いも浮島も剣淵も、すべての出来事は良きものに繋がっているのかもしれないと思った。

 スマートフォンには伊達の連絡先。チャット画面には、デートの予定が書かれている。
 買い出し、最高! 浮島作戦も一年生合宿もありがとう! あらゆるものに感謝をしてしまうほど佳乃は浮かれていた。

 日曜日になったら、駅前の噴水で伊達と待ち合わせをし、駅前のお店をはしごして一年生合宿に必要なものを購入する。途中で昼食も食べることになるかもしれない。駅前にはオシャレなカフェが多く、どこの店に行くだろうと想像すれば、自然と頬が緩んだ。


 そして決戦の日である。
 前日買ったばかりのブラウスに、クリーニングから返ってきて綺麗なプリーツスカート。髪だって普段の倍時間かけてセットし、かばんや靴といった小物までしっかりと選んだ。

「ねーちゃん、出かけんの?」

 洗面所に立って鏡とにらめっこしている佳乃に声をかけたのは弟である。休みの日だからと遅くまで寝ていたらしく、まだパジャマのままだ。

「うん。ちょっと出かけてくるね」
「すげー気合入ってる。もしかして男?」

 六つ離れて現在小学生の弟だが、姉がいるからかませたところがある。小学生とは思えぬ鋭さに冷や汗をかきつつ「まあね」と正直に答えると、弟は顔をしかめた。

「うわ。ねーちゃんに彼氏かよ……大雨でも降るんじゃね?」
「ちょっと、どういう意味よ」

 生意気を言う弟に呆れ、洗面所を出ていこうとした佳乃だったが、ふと弟の誕生日を思い出して立ち止まった。

「……あんた、今年で十一歳だっけ?」
「そうだよ、夏になったらレベルアップ。んで今年はなにを買ってくれんの? 俺、新しいゲームほしいんだけど」
「それはお母さんに言って。私の予算じゃ無理」

 弟の要求を冷たく跳ねのけて、今度こそ佳乃は洗面所を出ていく。弟と誕生日の話をしたこともあり、心にかすかなもやがかかっていた。

 弟の誕生日は夏休みのど真ん中にある。佳乃が考え込んでしまうのは、弟の誕生日そして年数が佳乃にとって特別な意味を持っていたからだ。あまり思い出したくない嫌な記憶。弟が一つ年齢を重ねるたびに、呪いと付き合ってきた年数も一つ増える。

 夏がくれば、この煩わしい呪いにかかってから十一年になる。振り返って洗面所に残る弟の姿を見れば、その背はすっかり大きくなっていた。