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 集まったのは空き教室、ではなく校舎裏だった。浮島のことを思うと空き教室を使用するのに抵抗がある。また撮られたらと怖くて、佳乃から校舎裏を提案したのだ。

 周りに人がいないことを入念に確認してから本題に入る。まず最初に説明したのは、グループチャットの名前が『剣淵と佳乃ちゃん二回目のキスを祝う会』になった理由だ。

「――じゃあ、なんだ。浮島に見られてたってのか」
「うん。帰ったふりをして隣の教室に隠れていたみたいなの。それで私たちの会話を盗み聞きどころか、たぶん……動画でばっちり撮られてる」

 佳乃が話すと、剣淵は落胆まじりの息を吐き、校舎裏の壁を殴った。会話やキスまで知られてしまった羞恥心と行き場のない怒りをぶつけたのだろう。いくら運動神経や体格のいい剣淵といえど一発殴ったところでコンクリートの壁に傷がつくことはなく、ただ鈍い音が響くだけだった。

「クソッ! めんどくせー、なんでこんなことになってんだよ」
「私だって嫌だよ! でも浮島先輩に逆らえないから……」
「お前、他にも弱味握られてんのか?」

 呪いのことを知られている、のだがその話を剣淵にはしたくなかった。だが答えてしまえば、ごまかしの嘘となってしまう。
 佳乃は、反応に困って菜乃花を見る。意図に気づいたらしい菜乃花が答えた。

「それはないみたい……それより、二人ともこれからどうするのかしら?」
「どうするって言われてもな……」

 様々な弱味を掴んでいる浮島に逆らうことはできない。佳乃だけでなく剣淵も同じ状況に立たされているのだ。二人してどんよりと暗い表情をして俯く。

 気分がどん底まで落ちているのにはある理由があった。
 それは昨晩、グループチャットに放り込まれた浮島命令だ。浮島は佳乃と剣淵に今日の行動を命じてきたのだ。
 普通の命令ならばまだいい。発案者は問題児の浮島である。浮島作戦と名付けられたそれは大変おかしな内容となっていた。

「やりたくないけど、逆らえないから……頑張るよ」
「おい、勘弁してくれ! 俺はあんなことやりたくねーぞ!」
「じゃあどうすんのよ。浮島先輩に逆らう?」
「……クソッ! やめてくれ!」

 剣淵はぶっ飛んだ浮島作戦に納得がいっていないようだった。だが浮島のことを考えると、作戦をやらざるを得ないのだろう。その拳がもう一度校舎の壁を叩いた。
 その様子を見てから佳乃はため息をつく。そして覚悟を決めたかのように顔をあげると、菜乃花に告げた。

「命令通りにする。放課後、伊達くんと話すよ」