こうなるのだとわかっていた。覚悟をしてここにきたはずだった。だが実際に失ってみれば、ぽっかりと穴が空いたような気がしてしまう。それだけ剣淵のことが佳乃の心を占めていたのだ。

 いまさら、剣淵のことが好きなのだと告げることはできない。いつも助けてもらった背を引き止める資格すらないのだから。

「……ごめん、剣淵」

 呟いても届かないほど二人の距離が離れた。

 いつだったかの菜乃花のように、座りこんで泣くほど、綺麗な失恋ではない。この失恋は自らの過ちが招いたものである。それを自覚しているために、佳乃は涙を零そうとしなかった。

 少しでも思いだしそうになれば、空を見上げて涙を堪える。それを何度か繰り返し、駅前のショッピングモールをふらふらと歩いていた時である。

 佳乃の視界に入ったのは、いつぞや浮島と来た雑貨店だった。

 気になって中に入ると、ハリネズミのマスコット付きキーホルダーがあった。いくつか数は減っているが、お気に入りの走るハリネズミは残っている。

 前回は荷物を抱えていたため佳乃の買い物はできなかったが、今回は荷物もなく財布の余裕もある。買ってしまおうかと手を伸ばして、はたと気づく。

「……いまさら、プレゼントなんてしても」

 剣淵はきっと佳乃を嫌悪しているだろう。週明けの登校も、二人の距離が縮まることはない。友達以下まで降格したのだ。
 だからこのプレゼントだって、剣淵に渡したところで喜んでくれるわけがない。そうわかっているのに――佳乃はハリネズミの小さな頭を優しく撫でた。

「どうしよう。諦められないよ、諦めたくないよ……」

 とたとたと忙しそうに走るハリネズミはやっぱり可愛くて諦められない。それはハリネズミだけではなく、剣淵に対しても。火をつけてしまった感情は簡単に消えてやくれないのだ。