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 二年の三笠佳乃が、浮島先輩に呼び出された。
 そのやりとりを目撃してしまった生徒たちは、二人の姿が廊下から消えてもざわざわと騒いでいた。

 浮島紫音は有名な生徒である。艶のあるルックスに夜遊び、女好きと悪い噂が多く、女子生徒二人と同時に付き合っただの、担任の女教師とデートをしていただのと言われているが真相は誰にもわからない。
 ただその派手なルックスが目を引いた。校則なんてどこへ消えたのか、先生たちもお手上げの問題児である。

 そんな浮島が平凡なタヌキ顔の女子生徒を呼び出し、二人きりで話がしたいとどこかへ行ってしまったのだ。このニュースは生徒たちを驚かせた。

「紫音先輩の隣にいたのって、A組の三笠さん……だよね」
「うっそー。なんで三笠さんが? 北郷さんならわかるけど、三笠さんはちょっとショックかも」
「昨日、B組の子がフラれたらしいけど、三笠さんが新しいカノジョなのかな」

 ひそひそと話すのは女子生徒たちだけではない。
 これから部活に行こうとしていた男子生徒たちも、二人のやりとりを見ていたのだ。

「すげーな、浮島先輩。彼女をとっかえひっかえじゃん、モテる男はいいよなー」
「でもタヌキの三笠だろ? すぐに捨てられるって」

 そうだな、と男子たちが笑う。

 だが、佳乃と浮島が降りていった階段を睨みつける男がいた。彼だけは不愉快そうに眉をひそめている。

「剣淵、行こうぜ。今日の練習で気に入ったら、サッカー部に入ってくれよ」

 ぽん、と肩を叩かれてその男は我に返る。それでも、もやもやとしたものが残っていた。
 困ったようにため息を吐いて、かばんを肩に引っ掛けなおす。

「……チッ、めんどくせぇな」
「そんなこと言わずに! 頼むよー!」

 そして波乱の放課後三日目が始まった。