剣淵と八雲が会う日を境に剣淵と距離を置く。そう決めてからというもの、時間はあっという間に流れていく。
 佳乃の決意を知らない剣淵は普段と変わらず、休み時間のたびに目が合ったり言葉を交わしたりと、まるで友達のように接していた。しかしそれも終わるのだ。

 八雲と会う日が明日に迫った金曜の放課後、ホームルーム終了のチャイムが鳴ると同時に佳乃は隣の席に声をかけた。

「剣淵」

 隣の席で帰り支度をしていた剣淵が、佳乃を見る。

 距離を置くとはまだ言えなかった。呪いの話だって出来ていない。それについては、明日の帰り際に告げようと決めていた。帰り際でなければきっと苦しくなる。剣淵と顔を合わせるたびに決心が鈍ってしまいそうだった。

「また……明日ね」

 距離を置けば学校で喋ることもなくなってしまうのだ。
 そう思うと、別れの挨拶を告げる声が震えた。気を抜けば泣き出してしまいそうで、ぐっとこらえる。

 そんな佳乃のことも知らず、剣淵は不思議そうに首を傾げて「おう」と短く返した。

「明日、八雲さんと会うでしょ? それが終わったら……話があるから」
「なんだよ話って。勿体ぶってんじゃねーぞ」
「い、いいの! 明日話すから。今日じゃだめなの!」

 剣淵は納得していないようだったが、頑なな佳乃の態度に屈して渋々頷く。

「……わかった。また明日な」

 かばんを引っ提げて、剣淵が教室を出て行く。その背を見送ってから佳乃も立ち上がる。

 呪いのことも、距離を置いて友達以下の関係になることも、明日にすべてを話す。そう決めているというのに、胸が苦しくて泣きそうになってしまう。どうしてこんなに苦しいのか。どれだけ考えてもその理由がわからない。


 帰り支度をすませて、佳乃が廊下にでた時である。

「三笠さん」

 振り返れば、そこにいたのは伊達享だった。

「大事な話があるんだ」