悩みというのはつきないものである。一つが解消されれば新たな悩みが生まれ、平穏なんてなかなかやってこない。三笠佳乃もそのことはよく知っているのだが、しかしこれは悩みごとを抱えすぎではないだろうか。

 レストランでの八雲ショック翌日。呪いやら剣淵やら菜乃花やら、頭に渦巻く悩みごとによって足取り重たく、学校に行くのも面倒だった。

 本来ならば早々に呪いについて明かし、剣淵が抱く好意の誤解を解きたかったのだが、八雲の登場によってそれどころではなくなってしまった。まだ話す時期ではないと判断し、呪いについては後回しとする。

 問題は、八雲だ。剣淵と八雲の関係が悪いことはわかったのだが、佳乃が思うに八雲と菜乃花の間にも暗雲が立ち込めている。菜乃花が表情を失い、氷のように冷たい瞳をしていたあの一瞬で、佳乃はそれに気づいてしまった。

「……まずは、剣淵をどうにかしないと」

 目下、戦うべき目標は剣淵である。休み時間にこっそりとメッセージを送っておく。

 『放課後、話がある』と用件のみにまとめたのは、ホームルームだろうが授業中だろうが休み時間だろうが、佳乃の方を一度も見ることなくむすっとした不機嫌の塊を思ってだ。余計なことを書いてもいまの剣淵には不要だろう。

 まもなく『わかった』と返信が届いたのだが、剣淵の態度は変わらなかった。それは授業が終わり、放課後になるまでずっと。