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その日の放課後。
下校時刻のチャイムが鳴り、教室や廊下は生徒たちの声でにぎやかになる。
伊原くんはカバンを持って、教室を急いで出ていった。
今日は木曜だけど、日曜の夜までアルバイトだと言っていた。
伊原くんの家の事情はよく知らないけど、あのアパートでひとり暮らしだと言っていたし、バイトも忙しそう。
白石さんの事故があって、東京に住んでいた伊原くんは彼女のそばにいるために、この町に引っ越してきた。
ここからは私の想像だけど、伊原くんの両親は転校することやひとり暮らしに反対したんだと思う。
そして、この町に引っ越してきてから、伊原くんは自分で生活費を稼ぐためバイトの日々。
両親に反対されても、愛する彼女のそばにいたい……。
「うん、深い愛だ……」
応援したい。
ふたりの深く大きな愛を。
「深い愛って?」
話しかけられて、私はハッとする。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
