「けどさ、不思議なんだ。俺が転校してきてから、学校でひそかに調べてきたけど、茉雛がいじめられていたっていう噂は、まったく聞かないんだ」
高校3年の4月というめずらしい時期に、伊原くんがうちの高校に転校してきた理由……。
「伊原くんは、白石さんの事故のことを調べるために転校してきたの?」
「この学校に転校してくる前、俺は東京にいたんだ。遠くでただ茉雛の回復を待つだけなんてムリだよ」
その言葉を聞いて、さっき頭に浮かんだ私の考えが、たしかなものに変わった。
伊原くんは、白石さんの彼氏なんだ。
東京に住んでいた伊原くんと遠距離恋愛中に、白石さんはこんなことになってしまって……。
ふたりは、どうやって知り合ったのだろう。
それにしても美男美女のカップル、誰から見てもお似合いのふたり。
事故が起きなかったら、いまもきっとふたりは幸せでいられたのに。
「茉雛とかわれるなら、かわってやりたい……」
「伊原くん……」
「茉雛が目覚めるなら、俺の命はどうなってもいい」


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
