「あ、そうだ! 音ちゃんにあげようと思ってたんだ」


私は音ちゃんの体を離し、制服のポケットからスマホを取りだす。


「待ってね、いま音ちゃんに送るから」


「なぁに?」


「へへっ、送ったよ」


音ちゃんのスマホに、1枚の写真を送った。


午前中に行われた吹奏楽部の発表会で、音ちゃんが演奏する様子をスマホのカメラで撮っておいたもの。


「風杏ちゃん忙しいのに見に来てくれたんだね。うれしい、ありがとう」


「もちろんだよ。素敵だった。すごくかっこよかったよ、音ちゃん」


泣きそうな顔になる音ちゃんの肩をそっとなでた。


「吹奏楽部は引退しても、楽器は続けるよね?」


「うん、続ける」


「よかったぁ」


音ちゃんの笑顔が、少しずつだけど増えた気がしてうれしい。