だけど、ある日偶然、伊原くんが事故のことを調べていることを知った。
風杏ちゃんも協力していて、事故について調べているノートも見てしまった。
それからはもう隠せないと思って、いつ話そうか、ふたりのあとをつけたりもした。
今日もいつものように、茉雛ちゃんの病室の前に花かごを置きに病院にやってきた。
そしたら、伊原くんと風杏ちゃんが病院の前のベンチで話しているのを見かけて、話の内容を盗み聞きしていた。
そして、すべてを話そうと決めた。
「ごめんなさい。もっと早く本当のことを言えなくて、ごめんなさい」
病院の中庭で、伊原くんと風杏ちゃんにすべて打ち明けた。
またいじめられるのが怖くて、茉雛ちゃんが目を覚ましたら本当のことを話そうと、自分に言い訳していた。
逃げていただけだった。
「灰谷、つらいこともぜんぶ話してくれて、ありがとな」
「本当にごめんなさい……っ」
「あの紙が茉雛の制服から見つかって、茉雛の両親が当時の2年1組の担任にいじめがなかったか調べてほしいって言ったんだ。いじめについてのアンケート、茉雛のクラスだけじゃなくて、茉雛に関係することだけじゃなくて、灰谷のクラスやほかのクラスにもいじめについてアンケートをとっていてくれたら……って思う」
「伊原くん……」
「その先輩からのいじめを、見て見ぬふりをしていた吹奏楽部の部員のうちの誰かひとりでも灰谷のことをアンケートに書いてくれたら、灰谷がこんなに長く苦しまなくて済んだかもしれないのに」
「でも茉雛ちゃんがあの日、私を助けてくれたから。茉雛ちゃんがいなかったら、いま私はここにいない」
「この世界からどうやったら、いじめはなくなるんだろうね」
そう言って風杏ちゃんは、私の肩を抱きよせた。
死にたいほどつらかった。
いじめられた過去は消えない。
苦しみも傷も簡単に癒えることはない。
だけど、悲しい世界でも、必死に助けようとしてくれる人がいた。
一緒に、おいしいものを食べようって。
一緒に、どこか行こうって。
家に泊まりにおいでって。
一緒にお風呂に入って、一緒に眠ろうって。
眠れないなら、朝まで話そうって。
……そう言ってくれた。
同じ経験をしたからと、心に寄り添ってくれた。
この世界に永遠なものなんてないから、私の苦しみもいつか終わるはずだと教えてくれた。
命は二度と戻らない。
命は、いちどきり。
“生きていて”
あの日の言葉に、返事がしたい。
だから茉雛ちゃん、目を覚まして。
私を助けてくれてありがとう。
私のために泣いてくれてありがとう。
茉雛ちゃんに謝りたい。
茉雛ちゃんの声が聞きたい。
茉雛ちゃんの笑顔が見たい。
茉雛ちゃん、本当にごめんね。