「お願い……茉雛ちゃん。目を覚まして……お願い……」
音ちゃんは、白石さんにしがみついて泣いていた。
私は、3年生になって初めて音ちゃんと同じクラスになった。
席も前後で、朝と帰りには必ずあいさつをする。
普段からおとなしい子で、話しかけるのはいつも私からだった。
だから、こんなに泣いて取り乱した音ちゃんは初めて見た。
「そろそろ茉雛の親がくる時間だから、出ようか」
伊原くんが言うと、音ちゃんはうなずいて涙を腕でぬぐった。
伊原くんと音ちゃんが病室から出ていく。
私もあとを追いかけるように、病室のドアに手をかけた。
……ん?
私は病室から出る前に、もう一度振り返って白石さんを見る。
……気のせいだよね。
眠りつづけている白石さんの手を見つめる。
いま、白石さんの指がかすかに動いたような気がしたんだけど……私の気のせいだったみたい。
白石さん……どうか、目を覚まして。
私も伊原くんも、奇跡を信じてる。
信じてるからね。
「また、会いにくるね」
そう彼女に向かってつぶやいた私は、病室を出てふたりのあとを追いかけた。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
