白石さんの病室に入ると、音ちゃんは抱えていた花かごをベッドのそばにあった台の上に置いた。
「いままで何度も病室の前に置いてあった花かごは、灰谷が持ってきてくれたものだったんだな。ありがとう」
音ちゃんは首を横に振る。
そして、小さな声で言った。
「こんなことくらいしか、できなかったの……本当にごめんなさい」
窓際には、別の花かごが飾ってあった。
花もまだきれいに咲いている。
この花かごも、音ちゃんが病室の前に置いていったものらしい。
「……茉雛ちゃん」
音ちゃんは、ベッドで眠りつづけている白石さんの手に、そっと触れた。
「茉雛ちゃん、ごめんね……。本当にごめんなさい。こんなことになるなんて思わなかったの」
声を震わせて、涙を流す音ちゃんを見て、私はまだ状況がよくわかっていなかった。
どうして音ちゃんは、白石さんに謝っているのか。
どうして音ちゃんは、病室に入れないと知りながら花を送りつづけていたのか。
音ちゃんと白石さんは、どんな関係なの……?
さっき、ふたりは1年生のとき同じクラスだったと話していたけど、席が近かっただけで特に親しいようには思えない。
2年生のときも、ふたりは別のクラス。
でも、白石さんの制服に入っていた紙は、音ちゃんの物。
伊原くんと私の話を、こっそり聞いていた音ちゃん。
“ぜんぶ話すから”
音ちゃんは、白石さんの事故について何か知っているみたい。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
