そこに立っていたのは、クラスメイトの音ちゃんだった。
「灰谷……」
「音ちゃん……」
ベンチから立ち上がった伊原くんと私は、沈んだ表情で立っている音ちゃんを見つめる。
音ちゃんは、黄色とオレンジのガーベラが美しい花かごを、胸の前で抱えていた。
そういえば、前にも花かごを持った音ちゃんが、この病院の前を歩いているのを見かけた。
たしか、私が黒河内先生の車に乗っているときだったと思う。
白石さんが入院しているこの病院に、音ちゃんの知り合いも入院していて、お見舞いに行ったのだと思っていた。
音ちゃんが誰のお見舞いに行ったのか、あとで聞こうと思っていたけど、あれからいろいろなことがあって、すっかり忘れていた。
音ちゃんに、伊原くんと話していた内容を聞かれてしまったみたい。
それに、音ちゃんが言った“ぜんぶ話すから”とは、いったいどういうこと?


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
