病院が見えてくる。
病院の入口前にあるベンチに座っている、私服で帽子を深めにかぶっている伊原くんの姿が見えた。
「おーいっ! 伊原くーん」
私は手を振りながら彼のもとへ走っていく。
彼は顔を上げると、私を見て微笑んだ。
「ハァ、ハァ……バス停から全力で走ってきたから……ハァ……しんど……」
私は息を切らしながら、ベンチに倒れこむように座った。
「そんなに急いで走ってくるくらい俺に会いたかった?」
「えっ!?」
伊原くんに顔をのぞきこまれて、顔が熱くなる。
「それで、俺に話したいことって?」
「あ、えっと……その……」
突然ドキッとさせるようなこと言うから、頭が真っ白になってしまった。
「ちょっとまってね……息が……」
「いいよ、ゆっくりで」
私は胸もとに手をあて、乱れた呼吸を整えながら、落ち着きを取り戻す。
「伊原くん、あのね……さっき赤西さんと話したんだ」


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
