クラスメイトの告白。



スーパーをあとにして、伊原くんの家の近くまで来たけど、足取りが重い。


学校を出るまでは、伊原くんとひさしぶりに話せることがうれしくて浮かれていたけど、せっかく会えた赤西さんに逃げられてしまったことを彼に話すのが心苦しい。


きっと、ガッカリさせてしまうだろうな。


伊原くんも赤西さんに話を聞きたがっていたから。


どんよりとした気分になっていると、思うように足も進まない。


さっきまで晴れて暑かったのに、いつのまにか空が灰色の雲に覆われていた。


「雨……降りそう……」


そうつぶやいたとき、ポツッとしずくが頭の上に落ちてきた。


そしてすぐさまザーッと雨が降りだした。


突然の大雨に、私はその場にしゃがみこむ。


まわりは田んぼばかりで雨宿りするところもない。


今日はもう帰ろうかな。


こんなずぶ濡れなのに、伊原くんの家に上がるのも悪いし。


会いたかったけど……でも……。


うずくまっていると、遠くで雷の音が聞こえた。


私は両手で耳を押さえて、うつむいたまま目をとじる。


怖い。


今日は伊原くんに会わずに帰ろう。


顔を上げて目を開けた瞬間、前から傘をさした人が走ってくる。


そして、私の前で立ち止まると、しゃがんでいた私の上に傘をさしてくれた。


「大丈夫か?」


「……伊原くん、どうしてここに?」


「なかなか家に来ないし、急に雨も降ってきたから、心配で見に来た」


私のこと心配して、さがしに来てくれるなんて……。


なんだか泣きそうになる。


好きなひとが自分のことを一瞬でも考えてくれるって、こんなにうれしいんだね。


伊原くんは傘を持ったままその場にしゃがみこみ、私と目線を合わせる。


「具合でも悪い?こんなところに座って……」


「ううん。雨でびしょぬれになっちゃったから、今日は帰ろうと思って」


「うち来なよ。近いんだから」


「でも……迷惑じゃない?」


「全然。ほら、行くぞ」


伊原くんは、私の手をとって立ち上がらせてくれた。


私は彼の顔を見つめる。


「なんか俺の顔についてる?」


「ひさしぶりだなって思って」


「ん?学校で会ったじゃん」


「学校は変装した伊原くんだもん。帽子はかぶってても、素の伊原くんの顔見たのひさしぶり」


「ははっ、そっか」


やっと会えた。


やっと話せた。


夏休みのあいだに募った、たくさんの想い。


何も言えないのに。


何も伝えられないのに。


それでもいま、私の胸の中はあたたかい。


大雨の中、1本の傘の下で私たちは体を寄せ合って歩いていく。