叶わない恋だとわかってる。
彼を好きだと気づいたところで、完全なる片想い。
自分の気持ちを伝えることもできないし、相棒として彼のそばにいることしかできない。
それでも会いたかった。
早く、彼に会いたかった。
「おはよう」
私に声をかけてきたのは、うしろの席の音ちゃんだ。
音ちゃんのほうから挨拶してくれるの、めずらしい気がする。
なんだかうれしい。
「おはよう、音ちゃん」
そのとき、彼が教室に入ってきたことに気づいた。
夏休み前と変わらずモッサリとした黒髪のカツラをかぶり、黒縁のメガネをかけて変装をしている伊原くんだった。
彼と目が合い、ドキッとした。
すぐに彼は視線をそらし、自分の席につく。
今度は胸がズキンと痛んだ。
久しぶりに会えて、うれしいのに。
早く話したいのに、それさえできない。
私たちの関係は、夏休み前から何ひとつ変わっていない。
それでも、彼の姿を見ることができてうれしかった。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
