白石さんの病室の前にやってきた。
……なんだか緊張する。
「伊原くん、ごめん」
「ん?」
「先に病室入ってて。私トイレに行ってくる」
「わかった」
緊張してお腹が痛くなってきてしまった。
「ひとりで行けるか?」
「ふふっ、小さい子みたいな扱いだね」
「トイレの場所、ちょっと離れてるからさ」
「平気。行ってくるね」
私は病院の廊下を歩いていく。
少し歩いた先で振り返ると、伊原くんは病室のドアを開けて中に入っていった。
私は通りかかった看護師さんに軽く頭を下げて、トイレに向かった。
いまさら帰ることなんてできない。
私は、私のするべきことをしなくちゃ。
白石さんの意識が戻ること、そして元気になった彼女が、伊原くんとまた幸せな日々を送ることを、私は願うんだ。
ほかに余計なことは考えちゃいけない。
いまはただ、ふたりのために。
心から祈ろう。
それくらいしか私にできることなんてないんだから。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
