前に伊原くんから聞いた。
施設にいた白石さんは、子どもを亡くした夫婦の娘になったこと。
育ての両親のことを大切に想っているから、転落事故が自殺の可能性はぜったいにないと。
「茉雛の病室、行こうか」
「うん」
私は、彼のあとをついていく。
病室に行くことは、白石さんの家族だけが許されていると聞いた。
事故当時、学校側からもお見舞いに行かないよう生徒に説明があった。
伊原くんは白石さんの彼氏だから、彼女の両親に許可を得ているのだろうけど……。
「私、本当に行っていいの?」
「急にどうした?」
「家族だけしか病室に入れないって聞いたから、私なんかが行っていいのかなって……」
「茉雛の両親にちゃんと言ってあるから心配しなくていいよ」
彼女の両親とも仲が良くて、事故に遭うまでは本当に幸せなカップルだったんだと思うと、神様はなんていじわるなんだろう。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
