「茉雛が泣いてた……?」
「うん。電話の内容はわからないって。でも白石さんが電話を切ったあと、泣いてる白石さんのことが気になって、緑河くんが話しかけたみたい」
「それで?」
「緑河くんが泣いてる理由を白石さんにたずねたら、白石さんが一言だけ“戦わなきゃいけない相手がいるの”って、そう言ったらしいの……」
「戦わなきゃいけない相手?」
「伊原くん、なにか心当たりある?」
彼は首を横に振る。
「茉雛が電話してた相手って誰なんだろう」
「誰と電話していたのかは教えてくれなかったって緑河くん言ってた。白石さんも泣いてたから顔洗ってくるって言って、その場からすぐにいなくなっちゃったんだって」
伊原くんは真剣な表情で考えこむ。
「そのとき白石さんがあまり話したくなさそうだったから、緑河くんもそのあと白石さんに会ってもその話はしなかったみたい」
「その茉雛が言った“戦わなきゃいけない相手”と、茉雛のポケットに入ってたあの紙……なにか関係あんのかな?」
事故のとき、白石さんの制服のポケットに入っていたくしゃくしゃの紙。
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ウザい
死ね
さっさといなくなれ
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「茉雛のスマホの着信履歴、茉雛の親に確認してもらうよ」
「事故の数日前だから、たぶん残ってるよね?」
「着信の相手が複数いても、これでだいぶ絞り込めるし、茉雛が泣いてた理由も戦わなきゃいけない相手っていうのも、少なからずわかるはずだよな」
「うん」
「ありがと、汐野」
「ううん、私はなにも」
「緑河も俺にはぜったい話してくれなかっただろうし、汐野のおかげだよ」
「少しでも役に立てたならよかった」
「少しどころじゃないし、汐野には本当に感謝してる」
「白石さんのこと、なにかわかるといいね」