「様子見てくる」
緑河くんの手を解いた私は、紫蘭ちゃんのあとを追いかけて図書室を出ていく。
廊下に彼女の姿はない。
どこにいったんだろう。
もう帰っちゃったかな。
私は彼女をさがして、廊下を走っていく。
とりあえず下駄箱に向かおうと階段を下りようとしたとき、上からすすり泣く声が聞こえた。
この階段の上は、立入禁止の屋上。
規則で生徒は、屋上に近づいてはいけないことになっている。
だけど、上から泣き声が聞こえてくるため、しかたがない。
私は高校に入学してから初めて、この階段を上った。
……いた。
階段を上がったところ、“立入禁止”と大きな紙が貼ってある屋上の扉の前で、膝を抱えて泣いている紫蘭ちゃんを見つけた。
「紫蘭ちゃん」
声をかけると、彼女は顔を上げた。
涙で濡れた彼女の顔を見たら、胸が痛んだ。
やっぱり……泣いてた。
私は紫蘭ちゃんの隣に座り、ポケットからハンカチを取り出して彼女に渡した。
そのハンカチで彼女は涙を拭くわけでもなく、両手でぎゅっと握りしめていた。
「……なんで来たんですか?……っく、ひっく……」
「さっきのこと、誤解してるかもと思って。緑河くんとは、なにもないから」


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
