「わざとだろ、おまえ」
緑河くんの言葉を無視して、伊原くんは無言でメガネのズレを直している。
伊原くん、もしかして助けてくれた……?
今朝の手紙のことは、授業中に伊原くんのスマホにメッセージを送っていた。
伊原くんが図書室に来てくれなかったら、危うく緑河くんにキスされるところだったかもしれない。
「そんなモッサモサの髪してっから前見えないんだろ? せっかく風杏といいところだったのに……」
ふてくされた様子の緑河くんは、その場にあぐらをかいて座りこんだ。
「伊原くん、私ちょっと紫蘭ちゃんのところに行ってくるから、本の片づけお願いしてもいい?」
私は抱えていた本を、伊原くんにあずける。
「え? おっも。俺が……?」
「戻ってきたら私がやるから。それまで緑河くんの本の片づけ手伝ってあげて」
伊原くんは小さくため息をつくと、うなずいてくれた。
「ありがとっ! なるべく早く戻ってくるから」
私が行こうとすると、床に座っていた緑河くんが私の腕をつかんだ。
「なんで風杏が行くんだよ?」
「だって緑河くんが追いかけないから」
「気にしなくていいって。べつに彼女でもなんでもないんだからさ」
紫蘭ちゃんのあんな顔見たら、ほっとけない。
泣きそうな顔してた。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
