あいかわらず変装は完璧。


顔が半分隠れるくらいのもっさりとした黒髪のカツラをかぶり、背中を丸めてうつむきながら歩いてくる。


あの姿を見ていると、本当の彼の姿はとても想像できない。


学校に登校してきたってことは、体調もよくなったのかな。


いますぐ彼のところに駆け寄って話をしたいけど、まわりの生徒の目があるからできない。


上履きに履き替えた私は、先に教室へ向かう。


あとで伊原くんにメッセージを送ろう。


とにかく元気になってよかった。


伊原くんの部屋に泊まった夜、私は彼の手をにぎりしめたまま隣で眠った。


どうかしていたあの夜の自分を忘れたいのに、何度も思い出してしまう。


彼女のいる人に、何をやってるんだろう……。


あの夜のことは誰にも言えない。


伊原くんにも絶対に言えない。