満月 悟(ミツキ サトル)、大学二年生。
彼は俺の二歳年上の兄である。

少し垂れ目で髪は柔らかな茶色、性格はマイペースで天然が入ってる。世話好きで面倒見がいい。
料理が得意だがお菓子作りは苦手。
不在気味の両親の代わりに俺の面倒を良く見てくれている。


そんな兄のことを尊敬し敬愛している。
いや敬愛など生易しい愛ではない。


俺だけのものにしたい、閉じ込めて、独占して、誰の目にも触れさせたくない……そのぐらい兄が好きなのだ。


好きなのだが……一つだけ俺達の仲を阻む弊害が存在する。


「とーもっ!」


呼ばれる名前と共に肩に掛かる重み。


「お帰り、帰ってたんだね?」


ソファーに座りボーッとテレビを見ていた俺の後ろから、兄の顔が覗き込むように現れる。


「………近い、邪魔。テレビ見えない。」
「あ……ごめん。」

ぱっと体を離した兄は回り込んできて隣へ腰を下ろした。


「学校どうだった?」
「別に普通。」
「そっか、楽しかったんだね。智(トモ)夜は何食べたい?」


ニコニコと兄さんは顔を寄せてくる。


「だから近い、邪魔。晩飯も適当でいいよ。」
「えー、リクエスト受けるよ?」
「だから適当。何でも良いって。」
「そう?じゃあ智の大好きなカレーにしようかな。待っててね。」

鼻歌を歌いながら兄さんはキッチンへと消えていく。


び、ビックリした……顔、近いし。
すげー良い匂いした…。
あんな可愛い顔近付かれたら理性揺らぐ…。


俺と兄さんを阻む壁…それは俺のこの性格。


兄さんのことが好きなのにどうしても素直になれず、冷たく当たってしまう。


いつから、どうして?
そんなことはもう覚えていないが、物心着いた時には既にこの状態だったために今更素直に甘えられるわけがない。

こうして想いとは裏腹に俺の態度は兄に対して素っ気なくなっていき……今となっては辛辣な弟が定着してしまった。