季節は、桜が咲きみだれる4月。
今日も部屋に閉じこもっている。誰とも関わりたくないから。
一ノ瀬 結(いちのせ ゆい)高二。
今どきの高校生みたいにけしょうもおしゃれもしてないけど、可愛い方だと思う。
私は常に部屋の中にいる。部屋だと1人になれるし、唯一落ち着ける場所だからだ。
私だって、中学生までは普通の学生だった。今の姿になったのは、中学を卒業する頃、ある病におかされてからだ。
若年性アルツハイマーだと診断された。物忘れが激しくて、記憶が曖昧になる病気だ。
話を何度も聞き返してしまう私を心配した母が病院に連れて行ってくれて、初めて知ったのだ。治療法はなく、進行を遅らせるリハビリくらいしかないのだ。私はなんだか、お婆ちゃんになった気分で、恥ずかしくて、誰とも話したくないのだ。
今では、1時間前のことすら曖昧になる。数年後、親や友達の名前すらおぼえていられなかったらとおもうと、悲しいし、悔しい。
記憶を失ったら、名前を忘れること以上に、友情や愛情まで失ってしまうのだろうか。もしかしたら、自分の名前すら読み書き出来なくなるのかもしれない。そんなの、情けなさすぎる。
これからも、私の記憶はどんどん失われていく。
失うだけの人生に、意味なんてあるの?誰でもいいから教えて、いきて行くことの意味を。
母は言った。
「一緒に乗り越えていこう。」と。
そんなこと、絶対無理に決まってる。
大人はこういう時、嘘をつく。私たちが希望を持つと思っているからだ。
みんなは知らない、私の痛みなんか。
だから…。
傷つくことが怖かったから、人と関わることはやめた。