そんな庄司くんを見ていると、私の胸もキュッ、と痛くなった。
「そんなとき、紗英のお兄さんに言われたんだ。東京で就職して頑張ってみろって」
「お兄ちゃんに?」
「ああ。自分の彼女のことも頭によぎってはいたんだろうけど。そのことは言わなかったな。でも、紗英のことを気にしてて、『紗英はきっと、ずっと地元だけで世界を終わらせるような子だから、庄司くんが外に出るきっかけを作ってほしい。外でやりたいことがあるんなら、それを優先してみてくれ』って言われたんだ」
「そんなことをお兄ちゃんが言ってたの?」
いつもは意地悪ばかり言う兄なのに、私のことをちゃんと見ていて、気にしていてくれていたなんて。
知らなかった兄の一面が見えて、私は目を丸くする。
「こうも言ってたな、『紗英に近づく男の影は、俺と親父が全部排除するから心配すんな』って。その言葉に勇気をもらって、東京で就職することが決めれたんだ」
兄の大きな優しさに触れて、思わず笑みがこぼれてしまう。
思えば昔から、意地悪ではあったけど、人見知りの私をずっと守ってくれていたのは兄だった。
私のことはずっと気にしていたんだろう。庄司くんを紹介したときに、兄に言われた言葉を思い出した。
『紗英。アイツのこと、信じてついていけば、きっとお前の世界も広がるよ』
きっと兄は、庄司くんと一緒にいることで、私が変わってくれることを期待してくれていたんだ。
劇的に変わった訳ではないけれど、確かに庄司くんと一緒にいるようになって、少しずつ人とコミュニケーションを取れるようになってきた気がする。
「でも、まだまだだよね、私。今日も庄司くんから逃げちゃったし」
「だけど、離れて生活することになっても、俺と一緒にいることを選んでくれた」
「それは、庄司くんのことが大切だからだよ。庄司くんがやりたいことをやってくれるのが私の幸せだから」
さっきは言えなかった自分の気持ちを、勇気を出して庄司くんに伝える。
きっとこの行為も、昔の私なら怖気づいて出来なかったこと。
「庄司くん。私を見つけてくれてありがとう」
精いっぱいの勇気を出して気持ちを伝えると、庄司くんに思いきり抱きしめられた。


