土曜日のお昼頃。
―――ピーンポーン♪
チャイムと同時に6歳のあたしは玄関へダッシュする。
「○×保険です。
お家の方は?」
「いなーい。」
「そうですか…。
でしたら、これ、渡しておいてください。」
6歳児に対しても丁寧な敬語で
パンフレットなどを手に持たされる。
「では、また伺います。」
玄関が閉まったと同時にガックリ肩を落とす。
回覧板じゃなかった。
「美鈴(みすず)ー。
誰だったー?」
リビングから呼ぶのはお母さん。
「保険の人。」
“お家の方”がいない。なんて嘘。
お母さん達は保険の人が来ると嫌な顔をするから
『いない』と嘘を吐く。
6歳児に嘘吐かせる親。
ま、セールス断る為だし…。
「回覧ばーんっ!!」
「そんな回覧板好き?」
聞いてきたのは、3つ上のお兄ちゃん。
『お兄ちゃん』だなんて
呼んだことはなくて、
いつも名前で、『翔(かける)』
と呼ぶ。
「うんっ!」
隣の家に回覧板を持って行く。
それが大好きだった。