「よかったら、貸そうか?俺はべつにちょっとくらい濡れても平気ーー」

「大丈夫だってば!」

自分でもびっくりするくらい、大声が出た。

近くにいる生徒が振り返って見ているのを感じる。

でも、どうだってよかった。

「迷惑だって言ったでしょ。もう二度と話しかけないで」

私は前を向いたまま言って、雨の中を駆け出した。

桐生くんの言う通り、雨はどんどん強くなって、私の身体を濡らした。

冷たいし寒い。けれど、いまの最悪な気分には、ぴったりだった。


私は最低なことを言った。

あんなの、ただの子どもっぽい八つ当たりだ。

顔を見る勇気もないくせに、言い逃げなんかして。

『迷惑』

『話しかけないで』

これまでに何度も、桐生くんに言ってきた言葉。

君は、どんな顔をしていただろう。

考えたくもないのに、頭が勝手に思い浮かべてしまう。

……きっと、傷つけた。

もう、本当に、二度と話しかけてこないかもしれない。

それを願っていたはずなのに、なぜか、胸がきりきり痛むのを感じた。