それでも、文句も言わずに全部食べてくれるのだ。
ちょくちょく作るようになったが、普段からお店で料理を提供していた人に、出せるようなレベルには程遠く、私は週一で初心者向けの料理教室に通いだした。
彼は、私にそんなことをさせる為に、合鍵を渡した訳じゃないとご機嫌がよくないが、私としては、彼に『好き』だと言わせる為には、努力あるのみで、慣れない仕事に疲れて帰る今の彼の胃袋をつかみたいのだ。
今の彼なら、胃袋をつかんだら、『好きだ。結婚してくれ』と言いそうだという下心が少しある。
私自身が、彼の料理に胃袋を掴まれたように…
彼が私を離したくないと思う要素を一つでも多く作りたい。
今日も仕事終えて、通い出した料理教室を訪れた。
今月は、春野菜を使った料理が主で、今日は、新玉ねぎを使った肉巻きと、春キャベツとベーコンの野菜炒めに、今から旬のあさりは身がふっくらと肉づきがよくぷりぷりして美味しいらしく、あさりでお味噌汁を作った。
初心者向けとはいえ、野菜炒めの火加減は難しくて、火を通し過ぎてしまってボリューム感は半減し、水っぽくなってしまった。
彼の舌を唸らせて『好きだ』と言わせるまでには、まだまだ遠く、帰る足取りも重かった。