そんな空気を気にしない男性が、カウンター席を勧める。

「いらっしゃい。前と雰囲気が違うからわからなかったよ」

そうでしょうね…

あの日は、ずぶ濡れで化粧も落ちて酷い格好してましたから…と苦笑いを浮かべる。

「今日は、お客さんで来てくれたのかな?」

爽やかなイケメンの笑顔が眩しくて、反応が遅れた。

「…はい。それとお借りしてた服も返しに伺いました」

会話している横で、チャラい感じの男性がお皿を下げるが、カタカタと音を立てて危なっかしい。

あれ?

私の表情に気がついた目の前の男性は、クスリと笑った。

「わかっちゃった⁈前に話した例のバイトってあいつのこと」

このお店のバイトは2人いて、見た目チャラいくせに実は真面目な青年と、好青年風だが、実は毒舌の青年がいるという。

そして、例のバイトとわかる理由は、真面目過ぎて不器用なのだという情報から、彼だと思ったのだ。

彼が描いたラテアートは可愛らしい熊のつもりだったらしいのだが、誰が見ても熊には見えず、ある人が見ればいぬに見えたり、また違う人が見ればカエルに見えたり、酷い人は、笑うお化けだったことを面白可笑しく聞いていたからだ。