その間、ぐちゃぐちゃにした紙幣を陸くんが拾い、伸ばしてレジの中に入れていた。

「オーナー、店閉めますね」

「あぁ…頼む」

何か考え、苛立ちながら頭を掻いた透さんは

「愛梨、帰ってくれ。今は一人になりたい」

顔を強張らせる透さん。

私も今は冷静な判断ができなくて、彼の話を聞くより逃げることを選んだ。

お店を閉めようと外の看板を片付けていた陸くんに、飲み物代だけを渡しお店を出ると、少しして、陸くんが追いかけてきた。

彼とこうして2人きりになるのは、陸くんに抱きしめられた時以来で、透さんは、追いかけて来る気配もない。

「あんた、大丈夫かよ」

「…どうなんだろう?わかんない…あの人の爆弾発言に、頭の中ぐちゃぐちゃ」

「泣きそうな顔して笑うなよ。あんたに振られたってわかってるけど、ほっとけない…」

「…ありがとう。だけど、…」

「今日、あの女が来た早々、オーナーは婚約話を聞かされたんだ。隠してたわけじゃないと思う。オーナーは…あんなだが、あんたのことだけは大事に思ってる。だから…信じて待っててあげてほしい」

陸くんの声も、心に入って来ないほどショックが大きいらしい私は、そのまま彼に背を向けて歩いていた。