透さんは、私を見つめて微笑み、頬を撫でていった。

それはまるで安心しろというように…

「今は、そうかもしれません。ですが、あなたも神崎家の一員なんですよ。それを忘れないでください。私と結婚することは昔から決まってたことなんですからね」

カウンターの上にバンとお金を置いて帰る際、座っていた私の肩に鞄をぶつけてきたので、驚いて顔を上げると、以前見た清楚な女性が目を吊り上げて睨んできて、コーヒーカップをチラッと見て小馬鹿にした笑いを浮かべた。

「愛梨さんだったかしら?宏人を返してあげるわ。だから、透さんと別れて彼と寄りを戻した方があなたの為よ。あなたは、愛人にしかなれないのよ、彼のお母様のようにね。…そんな安い愛の幻にすがりついても、いつかは捨てられるのよ」

あはははと笑い、大きな爆弾を投下した彼女がお店から出て行った後、透さんは出口に向かって、彼女が置いていったお金をぐちゃぐちゃにして投げ捨てた。

「くそ…」

店内に、お客さんが他にいなかったのが救いだ。

爽やかな顔も怒りで鬼の形相になり、怖くて声もかけれない。

それに、彼女がおいていった言葉がショック過ぎて頭の中が整理できないでいる。