「お水です」

「ぁ、ありがとう」

「あんなオーナー見るの初めてです」

「そう…なの?」

「あんなにデレて、見てるこっちが恥ずかしいですよ」

「デレてるつもりはなかったんだけど、他のお客さんの目もあるのに…ごめんなさい」

「いやいや、違いますよ。デレてたのはオーナーです」

「と、神崎さんが?」

「目尻下げちゃって、『俺といたくないの?』って、あのオーナーの口から絶対出ないセリフですよ。あと…あっ、『意地の悪い大人なんでね』でしっけ⁈…うわー…なんすか、あの甘い表情。何かに頭ぶつけたんですかね」

酷い言われように、苦笑してしまう。

「オーナーのせいで、テーブル席のお客さん、めちゃ愛梨さんの事見てますよ」

「だよね。怖くて後ろ振り向けないよ」

「オーナーってあの爽やかな笑顔で、客との線引きちゃんとしてて、たまに勘違いして声かける人もいたりしますけど、あの笑顔でスルーして踏み込ませないんですよね。ここに来てるみなさんは、そんなオーナーを知ってて観賞してるだけなんで、気にすることないですよ」

「さっき、めっちゃ見てるって脅したのに、気にするなって言われても、説得力ないけど…」