すると、こちら側に体を向けた透さんは、私を見て微笑みなぎら、頬を撫でてくる。

「この子、僕の特別な子なんだ。騒がれると逃げってちゃうから、あまり騒がないでね」

透さんの発言に驚いたの私だけではない。

透さんのファンが嘆いている声が響いていた。

そして、カウンター内にいる奏多くんが『マジ』と呟いているのだ。

だよね…

そんな奏多くんに

「愛梨は俺のだから、気安く話しかけるなよ」

「はぁ…い」

呆れ顔で返事を返していた。

「愛梨、今日、辛くなかった?」

頬を撫でる手は健在で…意味ありげに微笑む笑顔に頬が熱くなる。

ただ、頬を赤らめてコクコクと頷く私。

「なら、よかった。後で送るから、それまで待てる?」

「今日は、コーヒーだけ飲んで帰るつもりでいたんだけど」

「俺といたくないの?」

一緒にいたいけど、昨日は無断外泊をしたから、早く帰ろうと思っていたのに、そんな言い方されたら断れない。

「…いじわる」

「わかってるよ。意地の悪い大人なんでね。お詫びに愛梨の為にご飯を作ってくるから、待ってな」

ぽんと頭を軽く撫で、カウンター内の奥にあるキッチンへ行ってしまうと、背中に、またビシビシと物いいだけな視線が集まっている気がする。