その三楽亭は、老舗で味わいのある日本食の店だった。
入り口はさほど大きくないけれど、中に入ったら建物の真ん中に中庭があり、どの和室からもその日本庭園が見えるようになっている。
映司は緊張の面持ちで咲子の祖父と母の待つ一番奥の間に入る。
十畳ほどの和室は、窓から見えるライトアップされた夜の日本庭園がひと際美しく見えた。
咲子は、先にテーブルに座っている祖父と母に、映司と明智君を紹介する。
そして、映司を祖父の隣へ、明智君を母の隣へと座らせた。
「じゃ、まずはじめに、映司さんから一言お願いします」
映司は、咲子の言葉にますます緊張が高まる。
そして、その緊張の先には、明智君の顔が見えた。
映司は目を閉じた。
明智君に聞いてほしくはないが、でも、そこにいるのなら絶対に聞かれてしまう。
映司は心を無にする。
大切なこの場で、咲子にとって大切な人達に、自分の真心を聞いてもらいたい。
明智君の存在を気にしている場合なんかじゃない。



