映司はわざとらしく咳払いをした。
でも、そんな小細工を咲子が気付くはずがない。
「咲子ちゃん!」
「はい?」
映司は咲子に目配せをして、そして首を横に振る。
「荷物は必要な物だけにするんだ。
足りない物があったら、その時は俺が何でも買ってあげるから。
とりあえず、ここにある物はしばらく実家に預かってもらう。
すぐに咲子ちゃんの元に返ってくるから、心配しないで…」
咲子は涙ぐんでいる。
この空間を大切に思っていた咲子の事を考えると胸が苦しいが、でも、本物の自由を手に入れるためには何かを犠牲にしなきゃならない。
映司は咲子を自分の胸に引き寄せた。
「咲子ちゃんのお父さんに、絶対に祝福してもらおう。
今日、咲子ちゃんの家に行って分かったよ。
俺の人柄やアイデンティティーやそんなもの何も関係ないんだって。
お父さん達は、咲子ちゃんの結婚相手は皇太子様以外は認めない。
俺のライバルが皇太子様だなんて光栄過ぎて涙が出てくるよ。
でも、俺は皇太子には負けない。
負けるわけがない。
それは、俺以上に咲子ちゃんを愛する男はいないから。
昔、流行った歌でこんなのがあったっけ?
信じる事さ~、必ず、最後に愛は勝つ~~~~」



