「映司さん、どこへ向かえばいいですか?」
口数が少ない事で信頼を得ているタロウも、我慢できずにそう聞いた。
母屋で何があったのか知らないけれど、一時間前の咲子とは別人の咲子が戻ってきた。
映司さんに抱きかかえられた咲子さんは、涙で前も見えないらしい。
タロウは車に乗り込んだ二人を確認すると、とりあえず車を出した。
でも、映司さんも何も言わない。
タロウは気になってバックミラーで二人の様子を窺うと、咲子さんを抱きながら険しい顔で外を見ている映司さんの姿が気になった。
タロウは何も聞かずに車を進めていたが、さすがに目的地が分からないとどうにもできない。
映司はタロウの問いかけに、やっと前を向いてくれた。
「まずは咲子のマンションまで行ってほしい。
住所は事前にナビに入れてある。
その後は、またその時に伝えるから」
タロウは小さく頷いて、スピードを上げる。
EOCの人間に不可能はないと思っていたけれど、このカップルに立ち込めている暗雲はかなり闇が深そうだ。
EOCきってのやり手の映司さんでさえ、浮かない顔をするくらいだから。



