美都子の冷たい一言を聞いて、映司は胸が痛みだす。
この家にはたくさんの決まりがあって、咲子はそのたくさんの決まりを健気に従順に守ってきた。
そんな咲子が不憫でならない。
「じゃ、お父様、私の結婚を認めてください。
私が第一のお妃候補という皇室との約束事がもし本当にあるのなら、それはお父様の方から丁寧に断って下さい。
私は誰が何と言おうと、映司さんと結婚します。
映司さんはこんな面倒くさい家庭環境に育った私を、全て分かって愛してくれています。
私も映司さんを愛しています。
だから」
「だめだ!
咲子、いつも言っているだろう?
咲子は選ばれた人間なんだよ。
選ばれた人間は、そのお勤めをちゃんと果たさなければならない」
咲子は涙を我慢しているのが分かった。
そして、咲子が何かを言い返そうと息を飲んだ時、映司は咲子の腕をそっと掴んだ。



