咲子はちょっとだけ姿勢を正した。
映司の瞳が憂いに満ちてきたから。
「バイセクシャルって知ってる?」
「バ、バイセクシャル?」
映司は咲子の反応を見て、どう話すか決めようと思っていた。
そして、今の反応は、その件について全くの無知だという事。
映司は小さく息を吐いた。
「男にも女にも興味を持つ人間の事。
もっと、分かりやすく言えば、女も抱けるし男も抱く。
欲の範囲が広いというか、気に入った人を抱きたい、ただそれだけの事なんだけどね」
咲子は驚いているというより、理解できずにポカンとしている。
彼女の辞書には、そんな難しい単語は存在していなかった。
「だから、俺の過去を遡れば、恋人と呼ぶ人間が、男の時もあれば女の時もある」
咲子の顔が険しくなる。
その険しさが嫌悪感に変わらない事を、映司は祈るしかなかった。



